2011年07月12日

「 わたしを束ねないで 」   新川和江さんの詩



わたしを束ねない./あらせいとうの花のように/白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂/秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂

わたしを止めないで/標本箱の昆虫のように/高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き/こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注がないで/日常性に薄められた牛乳のようにぬるい酒のように
注がないでください わたしは海/夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水

わたしを名付けないで/娘という名 妻という名/重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風/りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで/, や . いくつかの段落/
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには/
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章
川と同じに/はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩



※前記事 「『生きる』−谷川俊太郎  〜3年B組金八先生より」から続き


この記事へのトラックバックURL
http://trackback.blogsys.jp/livedoor/formulate/51945085